こんにちは!シュガーです。
今回は『屍人荘の殺人』に続く今村昌弘のシリーズ第二作『魔眼の匣の殺人(まがんのはこのさつじん)』のネタバレありレビューです。
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前作『屍人荘の殺人』はネタバレ対策してレビューしました(よければここからどうぞ)が、今作のレビューはもうネタバレなしではどうにもならんかな…ということで、ネタバレありレビューです。
Contents
ミステリのお約束に挑もうという意欲は今作からもひしひしと感じる!舞台装置に見えるこだわり
話題になった1作目『屍人荘の殺人』の注目点といえば、やはりその強烈なインパクトを持った舞台装置と、それをミステリのお約束に結びつけるパワーですよね。
今作『魔眼の匣の殺人』でもそれは健在。
今村昌弘さんは圧倒的にアイデア力が強い作家さんだなぁと。この点で唯一無二であるので、これから先の作品も売れるのだろうなぁと感じました。
あらすじはこちら。
その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は、予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人に死が訪れ、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに、客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。残り四十八時間。二人の予言に支配された匣のなかで、生き残り謎を解き明かせるか?! 二十一世紀最高の大型新人による、待望のシリーズ第2弾。
今作のテーマはズバリ「予言」。
これを使って、またミステリのお約束に挑む形の特殊・変則的な作品になっています。
なぜクローズドサークルで殺人が起こるのか?
前作では突然作られたクローズドサークルを利用してこの時とばかりに連続殺人を働いた犯人ですが、
基本的に、クローズドサークルというのは殺人を起こすのには圧倒的に不向きです。
それは作中でも語られている通り、犯人が絞られやすいからです(被害者が出れば人数も減りますしね)。
それでもミステリにおいてクローズドサークルというのはもはやお約束。
今作では、そのお約束に甘えることなく「なぜクローズドサークルで殺人が起こるのか」という必然性にしっかり納得いく理由が用意されていました。
それが「男女2人ずつの4人が死ぬ」という予言です。
つまり、自分が男なら「自分以外の2人の男が死ねば自分が助かる」、女なら「自分以外の2人の女が死ねば自分が助かる」ということになり、
自分が予言された死から逃れるために、他者を殺すという動機が生まれるわけです。
また、橋が燃えてクローズドサークルが形成されたときに、外の近隣住民が助けてくれないのもこの作品ならでは。
予言は必ず的中するので、自分が関係のないクローズドサークル内で人が死んでもらわないと困るという。冷たいといえば冷たいですが自分が死にたくないし説得力はありますよね。
今作の斬新さはここでした。前作と比べると流石にインパクトは控えめになりましたが、やはりアイデアが光ってるなぁと。
展開は少し遅めで解決編のカタルシスも若干弱め。動機があと一歩か?
前作『屍人荘の殺人』はかなり展開がはやく、一気に引き込まれて最後まで一気読みというタイプのミステリでしたが、
今作『魔眼の匣の殺人』はあまり一気読みタイプではなかったかなぁと。(といっても3日で読みましたがw)
まず予言に影響された殺人というテーマ上、とにかく雰囲気がオカルトで、超能力などの周囲を固める話が多く、なかなか本格的に事件が起きません。
特に私はオカルトに興味が無いので、序盤中盤はかなり苦痛でした…。ドラマの「トリック」とか好きならいいかもですが、この雰囲気が合わないとキツイかもしれません。
また、謎解きのカタルシスも弱めかな~と思います。
ミステリって魅力的な謎が用意されていてその答えが明らかにされるときにカタルシスがありますが、
この『魔眼の匣』は核となる謎のインパクトが弱かったかなと思います。というか、提示の仕方がかなりあっさりしていたので、葉村が注目すべき謎・状況を終盤に整理してくれるかしてもよかったんじゃないかと思います。
というのも、この作品で謎解きに関わってくる謎はどれも割と面白くて考えがいがあるのに、謎が整理されずどんどん話が別のところに行くので、解決編の前に集中して考える、また思い出すタイミングが全くないんですよね。
特に時計のところなんかはクイズとしても優れていて、誰でもしっかり考えれば答えに辿り着けそうなのが魅力的なんですが、タイムテーブルの整理は解決編で出てきますしね。ああいうのは先出ししてくれるとありがたい。
なので解決編での謎解きで感じられるカタルシスは他の作品と比べるとかなり弱かったように感じます。
注目すべき点が明確にされているかされていないかっていうのは本当に大きくて、これがされていないと「あぁそんなこともあったな」くらいの感想で終わってしまうんですよね。誰もが超丁寧に読み進めているというわけではないですし。
今作は結構単調な読書体験になってしまった感はあります。
今作は本格ミステリとしての面白さも充分兼ね備えていると感じるので、もうちょっと読者に優しい構成にしてくれたほうが嬉しかったかなと。
提示される謎がどんどん変わりながら先に行くので、謎解き小説というよりは普通のストーリーを追っているという印象のほうが今作は強かったです。
あとはやはり動機がいまいちですね。
今回の殺人は「男女2人ずつの4人が死ぬ」という予言が前提にあり、自分が死から逃げるための殺人なのでとにかく動機が弱いです。殺人事件そのものに人間らしさがほとんど感じられないというか。事件の裏にあるものが大したことないので、感情に訴えかけてくるものがなかったです。
前作以上に人を選ぶので、ここで次の作品も読むか分かれそう
このシリーズのミステリのお約束に挑むところはかなり好きなのですが、
前作『屍人荘』はそのインパクトとリーダビリティへの高評価に対してミステリ部分が並だったことから結局まぁまぁくらいの感想で、
今作はミステリとしては質が上がったかなと思うもののインパクトやリーダビリティが落ちてしまったように感じたので、個人的な評価としてはやはりまぁまぁくらいに落ち着いてしまいました。
というのも、このシリーズは本格としてはやはり他のミステリのほうが面白く感じてしまうので、屍人荘のようなインパクトと引き込まれる展開はやっぱり必要だなと感じたんですよね。
アイデアは一級品なので他の部分がついてこればものすごい作品になってしまいそうなのですが、今作で脱落する人は少なからずいるように感じました。
とはいえ、私はなんだかんだで次回作も読むと思います。次は絶賛したいな〜!
屍人荘のレビューはこちらをどうぞ。ちなみに屍人荘はAudibleの無料体験で聴くことができますよ!