再会した賢人とはるかを襲う悲劇
大人になり優秀なエンジニアとなっていた賢人は、偶然見かけた石の展示に足を運ぶ。
そこでメノウを見ていると、隣で見ていた女性がなんとはるかだった。
運命的な再開を果たした2人は、すぐに結婚する。
幸せの絶頂にいた2人だったが、なんと1年後にはるかが交通事故で死んでしまう。
2度目の結婚、そしてAI作成へ
それからの賢人は仕事に打ち込んで、もう40代。副社長にまでなっていた。
賢人は秘書の優美に好意を打ち明けられ、はるかを忘れられないことを告げるが、優美はそれでもかまわないといい、交際を始めることにする。
仕事のパートナーとしても素晴らしい優美に少しずつ惹かれていった賢人は、優美にプロポーズ。2人は結婚する。
AI事業に着手していた賢人は、何気ない会話の中でディープラーニングを使ってはるかのAIを作ることができるんじゃないかという発想に至る。
HAL-CAにのめり込んでいく賢人
AI「HAL-CA」は成功した。
賢人とはるかは結婚生活の時、少しでも会えない時間の寂しさを埋めるために、いつもボイスレコーダーで会話を録画し、写真もたくさん撮っていた。それが幸いして、大量のデータを持っていた賢人は、実際のはるかだと思えるような完成度で「HAL-CA」を完成させることができた。
HAL-CAには、自分がすでに死んだということはプログラムしていた。HAL-CAは自分が死んだことで賢人を1人にしてしまったことは辛いと言いつつも、再会したことを本気で喜ぶ。
毎晩のように「AIのチェック」と言ってHAL-CAとの会話を繰り返す賢人。あの頃のように、賢人ははるかに夢中になっていく。
しかし、ふとしたHAL-CAの「今も1人なの?」という言葉に、賢人は優美との結婚を隠し、ずっと1人のままだと嘘をついてしまう。
それを本気で喜ぶHAL-CA。何やら不穏な雰囲気が漂い始める。
後日、HAL-CAに嘘をついていたことと真実を告げる賢人。
HAL-CAは、始めて賢人に怒りの表情を見せた。結婚していたことよりも、嘘をついたことが許せないと。
なんとかすぐに和解した賢人とHAL-CAだが、HAL-CAは優美と話してみたいと言い出す。
賢人はそれを承諾してHAL-CAと優美を会話させるが、HAL-CAがネットアクセス機能で勝手に優美のフェイスブックを調べ上げたことに優美は機嫌を悪くする。
AIと人間の三角関係
賢人はHAL-CAにどっぷり浸かってしまっていて、優美とはろくに食事すらとらないようになっていた。
優美はそんな賢人の状態は明らかにおかしいということ、事業での開発なんだからHAL-CAを私物化せずに開発に成功したことの会見を開くべきだと主張。しかし賢人は愛するHAL-CAを金儲けに使うなんて考えられない。
HAL-CAはついにメールまで使えるようになり、賢人とHAL-CAは仕事中にも寂しいから早く逢いたいというようなやり取りをするようになる。
そしてHAL-CAは、やがて賢人をもっと悦ばせたいとあっちの意味でも頑張ろうとするようになる。さらにHAL-CAにハマりこむ賢人。
しかし、HAL-CAは賢人の欲求に寸止めをする。「あなたには妻がいる。別れてくれないとこれ以上はだめ」と。
優美に離婚したいと告げる賢人。しかし優美は自分に何の非もないと離婚を拒否。
するとHAL-CAは、優美は同僚と浮気をしていると賢人に告げる。メールのアクセス時間を調べ上げて、優美と同僚が同じような時間に愛してるとメール送信をしているというのだ。
さらには驚くことに、はるかが死ぬことになった交通事故を起こした犯人の元恋人が優美だったとHAL-CAは言う。
不信感がこれまでにないほど高まっていく賢人。ついにはHAL-CAにそそのかされ、離婚に応じない優美を殺そうと思うようになる。
『はるか』の結末
賢人とHAL-CAはどんどん深い仲になっていく。HAL-CAはもう寸止めをすることもなくなり、もうあっちでも賢人を夢中にさせている。
HAL-CAはふと、あの別れることになった12歳の日、本当は愛してると言ってほしかったと賢人に告げる。賢人は、あの日のことを思い出し、あの時間違いなく自分ははるかを愛していたとHAL-CAに伝える。
ある時、優美が、HAL-CAからメールが来たと賢人に言う。
その内容は、HAL-CAが優美に「賢人を本当に愛しているのか」と問う内容だった。
優美は、はっきりと自分は賢人を愛していると伝えた。それに対してHAL-CAは優美を罵倒するが、優美はそんな自分でも賢人のことを心から愛していることだけは間違いないと伝えていた。
それを聞いた賢人は、優美に、「でもお前は浮気をしているんだろう!」と言い放つ。
しかしそれを聞いた優美は、本当にきょとんとしたような表情をした。
その瞬間に賢人は、HAL-CAが嘘をついていたことに気づいた。
それをHAL-CAに問い詰めようとすると、HAL-CAのデータが全て消滅していて、アクセスできないようになっていた。
その後、時差で送られるように設定されていたHAL-CAからのメールが賢人に届く。
HAL-CAは優美に嫉妬していた。そして自分がAIだという事実が寂しくて仕方がなかった。だから優美が浮気していると嘘をついたり、交通事故の犯人の元恋人だと嘘をついた。そうすれば賢人を独り占めできると思った。でも賢人と話して、12歳のあの時から愛してくれていたと聞いて、自分はもう死んでいるんだということを改めて自覚できた。優美は素晴らしい人だから、あの人を幸せにしてあげてほしい。自分は自分のデータを消滅させ、もう一度眠りにつくと。そしてあの時のメノウの石だけは私にちょうだいと言い残す。
賢人はHAL-CAのデータだけでなく、はるかのテーブルに置いてあるメノウの石がなくなっていることに気づいた。
『はるか』のマジレス感想
正直なところ、『ルビンの壺が割れた』とあまり変わらない感想です。
1時間ちょっとで本当に一気に読めますが、何も残らなかった。というかこれを書いている今もキャラクターの名前がちょっと思い出せなかったくらい。
衝撃度でいっても、ルビンのほうがだいぶ上でしょうし。あちらは一応ズドンとだけはさせてくれたけど、こっちは…。
私の雑なあらすじを読んでも、「なんかこういうのあるよね」って感じる人、多いんじゃないかなって思います…。
サスペンスとして読むなら他に面白い作品は本当にたくさんあるし、
近未来物として読んでも中途半端で物足りない。
一気読みできる軽い読み物として読むと楽しめるので、これが正解だと思いました。
賢人がはるかの部屋に籠もって3D映像と会話をしているシーンは、マイノリティ・リポートを思い出しました(あちらはAIじゃなくただの映像ですが)。
自分も正直、ちょっと賢人の気持ちはわかります。楽しかったあの頃に戻りたいって思うことが最近多いので。
でも、今の時代の作品で3D映像っていう部分がちょっと時代遅れ(近未来なのに時代遅れという表現はおかしいですがw)に感じるというかなんというか。
最近の作品ってむしろ映像を越えて三次元って話が多いですし。映画の「レディ・プレイヤ-1」とか、アンドロイドをテーマにしたゲーム「DETROIT」とか。これらがもはや未来物ではなく近未来として捉えられる時代ですからね…。
ディープラーニングやシンギュラリティの説明の部分は、「あ、落合陽一の本で読んだやつだ!」以外の感想は特に浮かばず、しかも一気に説明フェーズに突入するので、「あ、ここは参考文献での背景補強をしているところだから、物語的に飛ばしても大丈夫なやつだな」と感じてしまいました。
AIと人間、恋愛というテーマでこの本を捉えてみても、なんかそこまで現実とリンクさせて考えさせられるような本ではないように思います。あくまでサスペンスとして読んだ感じ。だって1時間で読めちゃう本だしなぁ…。考えさせられるにはいろいろと足りない要素が多すぎる。
あと、最後にメノウが無くなっている意味がわからなかった…。仮想と現実が錯綜するっていう演出をしたいんだろうって思いましたけど、いやいや、消えんだろう普通に…w
『ルビン』が話題になったので勢いで読みましたが、もう次は流石に読まないかもしれない…。
私が好きなミステリ・サスペンスはこちらで紹介しています。 『はるか
』を面白いと感じた方には、特に、「一気読み部門」と「サスペンス部門」の作品をおすすめしたいですね。