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ポン・ジュノ監督作品独特の「不潔さ」による緊張感
やってきたのはクビになった家政婦。
ここの撮り方がまた強烈に上手い。インターホンのカメラから見える家政婦の独特な不潔感からくる不気味さ。
これ、韓国映画とくにポン・ジュノ映画でしか味わえない感覚です。「不潔感」を使うのが上手すぎるんですよ。
この家政婦、忘れ物をしたということで、母チュンスクは熟考の結果家に入れることにします。
すると元家政婦は地下室に直行し、何やら寄生を上げながら物凄い耐性で棚を動かそうとしています。
ここの印象もまた強烈強烈&強烈。ひと目で脳裏に焼き付くようなシーンです。
なんと棚の奥には地下への階段が。
元家政婦はパク家が住む前に建築家のもとで働いていたので、パク家の人々も知らないこの秘密の地下室を知っていたわけです。
恐る恐る追いかけるとそこにはなんと元家政婦の夫が住んでいました…!
隠れて様子を伺っていたギテク、ギウ、ギジョンは足を滑らせて階段から落ちてしまいます。(正直ここは「なにやってんだよ!!w」とイラっとしましたが笑)
これで元家政婦に、キム家の計画が全てバレてしまったわけです。
ここからはもう文字に起こすだけ野暮ってやつです。
言葉ではなく映像で語るのが上手すぎる。「臭いがする映像」
今回久しぶりにポン・ジュノ監督作品を観て思ったことがこれで、言葉ではなく映像で表現するのが上手すぎるということです。
一つはもちろんこの作品のキーとなる、「臭い」。
なんならこの作品において臭いが重要だとわかってくる前の、まず最初の家族の半地下の家のシーンですら映像を通して臭いが漂ってくるような感覚で、パク家から漂う清潔感とこれでもかというくらい対比が効いています。
加えて特徴的なのが、「階段」そして「雨」ですよね。
階段は文字通り、パク家とキム家の格差を表していて、
パク家から脱出したギウ、ギジョン、ギテクが大雨の中家に向かうシーンでず~っと階段を下っていく、そして足を止めたギウの靴の隙間から大量の雨水も階段を勢いよく下っていくシーンが印象的です。
言葉ではなく映像でパク家のような上流階級とキム家の半地下にどれだけの差があるのかということを表現していて、その後の水没シーン、そして下水が溢れてきているシーンなどでは「こびりついて取れない臭い」という印象がこれでもかというくらい刻みつけられます。
また、細かいシーンでも臭い以外の「こびりついて離れない半地下の雰囲気」は表現されていて、特に印象的だったのが買い出しに行ったときの、父ギテクがスーパーのビニール袋を自分の指を舐めてめくるシーン。
超自然なシーンなんですが、いくらパク家を騙しても半地下の人間であるということからは逃げられないということがよく表現されているシーンでした。(運転中に暴言を吐いてしまうシーンも同様でしたが、あちらは社長が気付いているので目立っていましたね)
ギウにこびりついて離れないあの「岩(象徴石)」の意味を考察する
この作品でかなり象徴的に使われているのが、最初にミニョクから送られるあの岩です。
もちろん詳しくは語られないものの、明らかに意味をもたせてあるアイテムなので、今回は少し考察してみようと思います。
考察するにあたって注目したいのが以下の数点です。
- 岩はミニョクから送られた
- ギウは岩にかなりの執着を持っていて、家が水没したときも真っ先に岩を持ち出した
- あの岩のせいでギウは酷い目に遭った
- ギウは最後に岩を捨てた
これらから考察してみますと、私は個人的には岩には以下の意味があるんじゃないかと思いました。
あの岩はギウ、キム家が持っている、唯一「半地下の臭いがしないもの」つまり「希望」である
あの岩はギウにとって、そしてあの一家にとって、唯一「半地下」のいわば「臭い」がしない外部のものであり(特にミニョクというエリートから贈られたので)、それはギウにとってチャンス、希望の象徴だったのではないかと思います。
あの岩がギウの手に入ったときからギウ含めキム一家の人生は好転してきていたので、
あの岩を失うことはつまり自分たちが半地下の貧しい生活に引きずり戻されることだと思って、家が水没したときに最初にあの岩を持ち出そうとしたのだと思います。
(父ギテクは母チュンスクの砲丸投げのメダルを持ち出そうとしていましたが、あれはギテク自身にはなにもないということを示唆したシーンだと感じました)
希望の象徴からの変化
しかし、あの岩は同時にギウ、そしてキム家を希望と言う名の呪いにかけたアイテムでもあります。
実際、ギウたちは希望に目が眩んで明らかにやりすぎました。
ギウが家庭教師として働くただそれだけで終わっていたら。
一家全員がパラサイトするきっかけを作ったのは、妹ギジョンを家庭教師として紹介したギウです。
つまり、あの岩が持つ意味であった「希望」は、結果としてギウたちを盲目にし、暴走させたのです。
体育館に避難したシーンではギウはそれに関して責任を感じており、そして父に謝っていました。
そしてギウは間違った形で責任を取ろうとしますが、その時もやはりあの岩は自分の手から離れ、それがきっかけでギウはあんな目に遭ってしまいます。
あのときからあの岩は、希望の象徴ではなく、「自分を盲目にさせる呪いのアイテム」へと意味を変えてしまったのだと思います。
なのでそれを理解したギウは最後に岩を捨て、愚直に人生を頑張るという儚い夢を抱くことになったのだと解釈しました。
『パラサイト』はとにかく印象的な場面が多く考察のしがいもある素晴らしい映画。他のポン・ジュノ作品も絶対観てほしい
最後になりますが、この『パラサイト』という映画は、ただ流し見してもめちゃくちゃ面白いし、それぞれの場面に注視して考察しても面白いしで全く隙のない映画だなと思いました。
後半はもう不安感MAXだし場面自体もハラハラするところだらけで観終わったあとは本当に疲れましたけど、個人的には絶賛レベルの評価で、2020年はこれを超える映画が観られるか少し不安なくらいです。
最初にも軽く書きましたが、今作でポン・ジュノ監督作品を観たという方は多そうなので、最後にいくつかおすすめの作品を紹介したいと思います。どれも一級品なので、『パラサイト』を面白く感じた方には絶対に観てほしいです。
『殺人の追憶』
まずはこれです。
実際に起きた連続殺人事件を題材にしたミステリ映画で、ミステリ・サスペンスというジャンルの映画の中でもかなりトップクラスの出来です。
またラストシーンの、スクリーンの外も意識した演出が有名で、最近になって実際の事件の犯人が特定されたというニュースが話題になりました。
2020年1/16現在、殺人の追憶はU-NEXT(1ヶ月無料)で観ることができます。
『母なる証明』
これも強烈に生々しくて面白いミステリ映画です。
知能に障害を持つ息子と二人で暮らす母。母は今でも息子のお世話をずっとしていて溺愛しています。
ある日、女子高生が殺害されるという事件が起き、息子に殺人容疑がかけられて母が疑いを晴らそうと奔走するんですが…
という話。
これもポン・ジュノらしい相当強烈な印象を残す映画なので、ぜひ観てください。
2020年1/16現在、母なる証明はAmazonプライム(1ヶ月無料)で観ることができます。
『海にかかる霧』
知名度が低めなんですがめちゃくちゃ面白いサスペンス映画。
これも実際に起きた事件を題材にしており、数十人を密航させようとした結果とんでもない事が起こるという映画で、人が狂っていく様をこれも生々しく描いていてめちゃくちゃ怖いです。
鑑賞後に湧き上がってくる感情が独特すぎて、パラサイト同様メンタルに余裕があるときに御覧ください。
2020年1/16現在、海にかかる霧はU-NEXT(1ヶ月無料)で観ることができます。(特にこの作品は動画配信されるケースが稀なので、ぜひこの機会に御覧ください)
『スノーピアサー』
ポン・ジュノ監督作品の中では評価が低めの作品ですが、個人的にはかなり好きな作品です。
これは『パラサイト』と同様に格差を描いている作品なのですが、
近未来、氷河期になり外では生活できなくなった人類が1つの車両の中で生活しており、それが描かれているのがビジュアル的にめちゃくちゃ面白いです。
列車の最後尾では最下層の生活が、そして先頭の方にいくにつれて貴族的な生活が行われているという世界観がたまらなく好き。
2020年1/16現在、スノーピアサーはU-NEXT(1ヶ月無料)、Amazonプライム(1ヶ月無料)で観ることができます。