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最初は王道のミステリ系かと思いきや、途中でまさかの「コロンボ系」にシフトする
先程、この映画には退屈させない工夫が随所にみられると書きましたが、その1つがこれですね。
聞き込みを終えた序盤の時点で、観ている側には「実際あのときなにが起きたか」というのがすぐに明かされます。
これが私にとってはかなり意外で、結構頭の中を掻き回された感覚がありました。
「クリスティ系」のようなオーソドックスなタイプかと思ったら、まさかの「コロンボ系(観ている側は犯人がわかっていて、探偵がそれをどのように解き明かすかを楽しむタイプ)」にシフトしたわけですから、この映画がどのようにオチをつけるのかわからなくなってくるわけです。
しかもうまいのが、マルタの靴についた血痕を超印象的に観客に観せてくるんですよね。
これでマルタはいわば「気づかれたら1発で終わり」の状況になっており、観客にいつバレるのかとハラハラさせる効果がありました。
このように途中からマルタを主人公にしたサスペンス映画にシフトするところが見事で、最後まで全くマンネリ感なしで観せてくれるんですよね。
『ナイブズ・アウト』の重要な伏線と犯人への気付き方について
重要な伏線①「犬」
私が最初に犯人を怪しいと思ったきっかけ、そしてこの作品の伏線の張り方が素晴らしいと思ったシーンを紹介します。
それがヒューの登場シーン。
彼は車から降りた後に犬にかなり吠えられるんですが、このシーンはまさにミステリのお手本だなと。
観る側にとっては、夜中犬が不自然に吠えていたことが明らかになっており、それがこのシーンと結びついてヒューが夜中に外をうろついていたことは割と簡単に推理可能です。(しかも夜中に犬が吠えていたということは序盤から最後まで放置されているので余計に怪しい)
ですが、それが割と簡単に推理可能なのは、この映画の出来を信頼してこそなんですよ。
なぜなら、基本的に面白いミステリには、意味が全くないシーンが存在しないからです。(逆に言えばつまらないミステリにはただの「スカ」な伏線が張られている)
つまり、この作品がよく出来ているのであれば、無意味にヒューが犬に吠えられるシーンは用意しないわけです。
逆に言えば、この作品がよく出来ているのであれば、あのシーンは「夜中に外にいたのはヒューだよ」という伏線のシーンで間違いないわけです。この映画はしっかりこちらでした。それが素晴らしいんです。
このシーンは犯人とは直接結びつきませんが、この作品はとことんヒューに伏線が集中していて他のキャラクターの印象が薄いため、必然的にヒューが事件に関わっていることはわかるようになっていると感じました。
他のキャラクターにもっと焦点を当てれば観ている側としてはより難しくなるわけですが、この作品はあえてそうしていないところが素晴らしかったと思います。
重要な伏線②ヒューがやった
これは最後に明かされたとき「やられたーーッ!!!」ってなりました。
まさにその発想はなかった。完全に上手くやられたシーンです。
私自身実際のセリフを耳で聴く努力はいつもしているんですが、ヒュー呼びに関するところは完全に頭から抜けていました。もう一回観たい……。
字幕に関しては難しいところですね。
あのシーンでは「あなたがやった」となっていたと思いますが、そう訳す以外しょうがないよなぁ…。やっぱりしっかり発音を聴いてないとだめですね。
ただ、ちょっとだけ微妙な伏線もあった
ただ逆に、おばあちゃんの「ランセル、また帰ってきたのかい」のシーンは少し微妙だったかなと。
あのシーンは、2回目だったから「また」と言っていたんだという伏線でここは非常に面白いんですが、そもそもマルタをヒューと見間違えているわけで、「また」の部分だけおばあちゃんの判断力を信用するっていうのは少し難しいところですね。
ただ、ああいうおばあちゃんが実はしっかりしているというのは超王道のパターンなので笑、あのシーンに着目するように作られてはいたなと思います。
強いて言うなら見間違えるだけのしっかりした理由がほしかったかな。もう1回観てそういうシーンがないか確認してみたいところです。
実は「被害者こそが黒幕」パターンじゃないかと心配していたので、違って本当によかった
ミステリ好きの方の中には私と同じことを危惧していた方がいるんじゃないかと思うんですが、
「世界的に著名なミステリ作家が死んだ」
な時点で、もうこの被害者がいろいろ企んだんじゃないかパターンが最初に浮かんでくるんですよねw
これはある意味正解といえば正解なんですが、もう映画の序盤の時点でこれに関して明かされて&真相は別の所にあって本当によかったなと。
ミステリは「犯人がわかったことをドヤる」ものではない。構造の美しさを楽しむものだ
これは私のちょっとした持論なんですが、
「犯人が簡単にわかった。微妙」
とか
「あんまり意外な結末じゃなくてつまらなかった」
という見方はもったいないなって思ってしまうところがあります。
私としては、ミステリの面白さって構造の美しさにあると思っていて、「犯人が意外」とか「犯人が全然わからない」ことってそこまで重要ではないんですよね。
もちろん犯人が意外だというのは最後の驚きという面で重要な要素の一つなんですが、私がミステリの面白さとかその作品をすごいと思うにあたって一番重要視していることって、
「伏線の張り方で危ない橋を渡っているかどうか」
なんです。
2回目を読んだり観たりしたときに、「おいおいこんなシーン用意してたらバレバレじゃないか!!」と思うものの、1回目のときには気付かない。
ここのバランスがミステリの面白いところだと思ってます。
そういう作者の勇気ある伏線の張り方にこそ美しさを感じるので、逆に犯人をわからせる気がなかったり、当てられる材料が全くない作品のほうが簡単な作品より個人的評価で下になることが結構あります。
実際私が大好きなミステリで世界的に有名な作品である『Yの悲劇』とかは、「もうここで犯人言っちゃってるようなもんじゃん!」レベルですからね…。でも最後まで読んで衝撃を受ける。これこそが最高のバランスだと思います。
そういう観点から観ても、この『ナイブズ・アウト』はかなり伏線で危ない橋を渡っているのに関わらず、事件の全体構造はかなり複雑で最後にしっかり驚かせてくれるため、素晴らしい作品だなと感じました。ミステリとして理想的です。
こういう王道ミステリ映画をこれからどんどん作って欲しい。なんなら名探偵ブランでシリーズ化してほしい
ミステリというジャンルの映画って本当に微妙なものが多くて、このジャンルでは本のほうが圧倒的に面白いと思っているんですが、
やっとめちゃくちゃ面白い映画が出てきてくれた!と狂喜乱舞しています。
というか最近このジャンルアツいですよね。『サーチ』『ギルティ』と超面白い作品が立て続けに出て、今回この『ナイブズ・アウト』ですから。
ライアン・ジョンソン監督はスター・ウォーズEP8『最後のジェダイ』でも観客の期待を裏切るシーンというのを多く作り出していたのでこの映画には期待していたんですが、まさに大正解だったなと思います。
もう名探偵ブランでシリーズ化しちゃってほしいくらいです。(ノリノリなダニエル・クレイグもみれますし笑)
いや〜本当に面白かったなぁ……。ミステリ好きとしては感謝しかないです。
ミステリオタクが『ナイブズ・アウト』を楽しめた方におすすめの作品を紹介!!
ここからは、普段ミステリにそこまで触れていないけれど『ナイブズ・アウト』が超面白かったという方に向けて、いくつか作品紹介をシてみようと思います。
まず最初に、先程書いたように私はミステリというジャンルは本のほうが面白いと今でも思っていますので、本のほうから軽く紹介します。
まずこの記事では、私が読んだミステリをランク形式にして紹介しています。
既に6万字を越えていて大変ですが、好きなジャンルの中でSランクとして紹介しているものをお試しいただけたらと思います。
ではここからは映像作品で紹介します。
アガサ・クリスティの海外ドラマ「名探偵ポワロ」「ミス・マープル」シリーズ
まずはどう考えてもこれが鉄板です。
古典ミステリでかつ、非常に見やすい映像化作品なのでイチオシです。
この記事ではアガサ・クリスティの個人的な作品ランキングも作っているので、よければ参考にしてみてください。
名探偵ポワロ、ミス・マープルの作品に関してはすべてU-NEXT(1ヶ月無料)で観ることができますのでぜひ!
古畑任三郎シリーズ
ライトなところならこれもおすすめです。
古畑シリーズに関しても個人的なランキングを作っていますので、こちらも参考にしていただけたらと思います。
古畑任三郎シリーズはFODプレミアム(1ヶ月無料)で観ることができます。
映画のおすすめ作品
ここからは単品映画でのおすすめです。
映画に関しても記事でまとめているので参考にしていただけたらと思うんですが、ここでも少し厳選して単品で紹介します。
Search/サーチ
先程記事でチラっと出した作品。
娘が行方不明になり、インターネット上で娘を探していくという作品で、全編パソコンの画面上で繰り広げられるのが特徴。
U-NEXT(1ヶ月無料)のレンタルで視聴可能です。
ギルティ
こちらも先程記事でチラ出しした作品。
全編電話の向こう側で事件が展開していくというサスペンスで、まるで面白いサスペンスを1冊読んだかのような満足感が味わえる。個人的にすごく面白かった作品。
こちらもU-NEXT(1ヶ月無料)のレンタルで視聴可能。
プリズナーズ
愛する家族が誘拐されたら…というテーマの重さを抱え、非常に見応えのあるミステリ映画。濃密でかつ最後まで面白い重厚ミステリが観たい方には強くおすすめ。
Amazonプライム(1ヶ月無料)、またはU-NEXT(1ヶ月無料)で観れます。
天使と悪魔
ビジュアルが最高に美しくて話としても興味深いしミステリとしても面白いのでおすすめしやすい作品。
シリーズ物で、他にダヴィンチ・コードとインフェルノが映画化されています。
Amazonプライム(1ヶ月無料)、またはU-NEXT(1ヶ月無料)で観れます。
交渉人
殺人容疑をかけられた交渉人が立てこもり、同じく優秀な交渉人と交渉対決をしつつ事件の真相に迫っていくサスペンス/ミステリ。
あまり世間では有名作品のような扱いを受けていない印象ですが、個人的には一級品で最後まで抜群に楽しめる。サミュエル・L・ジャクソンとケヴィン・スペイシーのコンビは流石に見応えあり。
Amazonプライム(1ヶ月無料)で観れます。
ちょっとおすすめしていたらキリがないのでこのへんで切り上げます。
この他にも気になるという方は
こちらを参考にしてみてください。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!